税金の役割・効果と所得税の課税単位                                                

税法 

副業のための税金の基礎知識1

日本の所得税の基本的な考え方・意味を知れば、確定申告提出までの道のりで、納得して確定申告書を仕上げるまでに役立つのではないかと思い、所得税の単位課税の考え方などを簡単に説明していきたいと思います。

1.税の役割

  税金はどうして納めないといけないと思いますか?学校で習った方も多くおられると思いますが、復習として、税金の果たすべき共通した役割は、「財源調達機能」、「所得再分配機能」、「経済安定化機能」です。それぞれ簡単に説明すると
・「財産調達機能」:公的サービス(警察・学校・救急車・消防車・自衛隊・道路などなど)の財源を調  達。 これは我々が生活しているうえで当然のように使っている公共サービス。これらのサービスがなければ困りますよね。                                         ・「所得再分配機能」:経済力のある人に大きな負担を求めて、社会保障制度などによって富・所得の再分配を図る。経済格差は昔から、そしてどの国でも問題とされています。租税の力を上手に使う事によって大きな格差ができないようにする、まさに国の政策が試される領域です。                                                                                                       ・「経済安定化機能」:好況期には増税、不況期には減税を通じて、需要を調整することにより、景気の変動を調整し経済を安定化させる。例えば景気は良いに越したことはありませんが、過熱し過ぎるとバブルと呼ばれる状況になってしまいます。日本では1990年代初めにバブルが崩壊し資産の価値が暴落して大不況に転じ混乱しました。こうした極端な状況を招かないために、景気をある程度安定させる必要があるのです。

確かに、正しい使われ方をしてもらえるならば、税金を納めることは我々が安心して暮らしていくうえでとても大切な事と理解できますね。払える範囲ならば、納税の義務を抵抗なく、いえいえ喜んで納めましょうという気持ちにもなります。   

            

2.所得税の課税単位 

 私たちが年末調整や確定申告をして納めている所得税は、個人単位でそれぞれ計算しています。しかし世界に目を向けるとこれが当たり前ではないのです。私たち日本人が税金を納める時、家族であっても、夫、妻、そして子に収入があるならば子と、まずそれぞれ個人単位で収入を計算して個人単位で所得税を計算します。これを「個人単位課税」と言います。日本の所得税法は「個人単位課税」を原則としています。これとは違い夫婦や家族を課税単位として所得税を計算するの方法があります。「世帯単位課税」というものです。それぞれの課税の仕方には累進課税(所得が上がるにつれて段階的に税率が上がっていく)のもとでは一長一短があるので、その国の考え方・政策・事情等により採用されている課税単位を選択しているのです。
それではそれぞれの特徴を簡単に見ていきましょう。

◆個人単位課税                                           

個人単位課税は日本で採用している課税単位なのでみなさんはなじみが深いと思います。個人単位課税主義を採用すれば、働いて生活を立ててきた男女が結婚することによって、基本的には税負担は変化しません。それぞれが今まで通り独立して申告・納税すればよく、従前と大きな変化はないことになります。しかしこの方式を採用していると、世帯同士の税負担に差が出来てしまうのです。世帯間同士を比較すると同じ1000万円の所得(概算で計算します。)を得ている場合、共働きで500万円ずつ稼得している世帯の所得税負担は114万5000円であるのに対し、夫が稼いで妻は専業主婦の場合には所得税負担は176万4000円となり夫婦単位での世帯同士では、税負担に大きな差ができてしまいまうのです。このように個人単位課税では、累進所得税制の下では世帯間で比べた場合「合計所得額の等しい夫婦が、等しい所得税負担をになる」ということができないのです。

◆世帯単位課税(合算非分割課税)

その名のとおり、世帯、つまり夫婦の所得を合算して課税する方法です。この課税単位ならば上記の夫婦(世帯)ともに所得税額は176万4000円となり、平等となります。しかし、ここにも問題が生じます。それは結婚しないで今まで通りの所得税を納めていた方が得という事になってしまい「結婚罰」という考え方が生まれてしまいますよね。これは国の政策上あまりよろしくない事象です。

◆世帯単位課税(2分2乗方式)

そこで、夫婦の所得を合算した上で2分し、それぞれに税額計算した上でその税額を合計するやり方が考案されました。「2分2乗方式」と呼ばれるやり方です。この方法ならば、個人単位課税の欠点である同じ所得の世帯なのに、共働き世帯と、夫一人の稼ぎと専業主婦世帯の所得税負担に差が生じる不平等も、世帯単位課税の欠点である「結婚罰」も避けることが出来ます。しかしこれもまた問題があるのです。この「2分2乗方式」では、同じ所得の独身世帯と 夫一人の稼ぎと専業主婦世帯 つまり一人で稼いでいる同士なのに結婚しているかどうかによって所得税負担に差が生じてしまうという問題です。。

◆世帯単位課税(N分N乗方式)

そして他に考案されたのが、所得税の課税対象を世帯全体を単位として課税する仕組みです。この所得税算定は、世帯の所得を合算した額を世帯の人数で割って1人当たりの所得額を計算し、そして1人当たの税額を出します。そしてその税額に世帯人数をかけた金額にもどして、支払うべき税金を計算するというものです。割る数は世帯の実人数ではなく、人数構成によってきまります。例えば、夫婦をそれぞれ1、第1子を0.5となれば、2.5が、この世帯の割る数及びかける数になります。この方法なら累進課税制度を組み合わせて、家族の人数が多いほど納入額が低くなり、少子化対策になるといわれています。

所得税の単位課税、つまりは。

このように全ての単位で平等に課税するこという事は難しく、そのような課税単位は存在しないという事になります。それぞれの国の事情、政策の要請をどの程度重視して、他の要請をどの程度我慢して解決を模索していくしかないという事です。

日本の課税単位


日本においては、戦前の所得税法では、課税単位としては『家』を対象としており、まさに世帯単位課税を採用していました。明治20年創設の所得税法において、「同居の家族に属するものは、総て戸主の所得に合算するものとする」と規定され、更に細則の中で「戸主に所得なくして同居の家族のみに所得がある場合に於いても、一家内に属するものはすべて合算の上、其の戸主の名を以て届出納税すべきもの」といった規定もあって、戸主がその一家の総所得の納税責任者であり、納税名義人だったのです。まさに日本古来から続く伝統的な日本の家族制度に従うものだったんですね。


戦後の税制においては、

戦後の税制に決定的な影響を与えたシャウプ勧告において、同居親族の所得を合算する世帯単位の課税が、形式的には伝統的な日本の家族制度に従うものであるが、実際上多くの好ましくない効果を伴っているとして、(1)累進課税下の所得の合算によって、同一の生活水準、同一の担税力水準にある納税者より高い税率を適用されるようになることは不公平である。(2)世帯単位課税に伴う税負担の増大が、人為的な世帯分解を生み出す可能性がある。(結婚罰など)(3)二人以上の納税義務者が同居親族の関係にあるか否かを判定することが困難である。(4)手続きが複雑であって、時間を浪費する。

このような根拠に基づき、戦後日本では、扶養家族については所得控除などを用いて負担減免を図り、個人単位課税を採用しているのです。

世界の課税単位

以下のように各国様々な課税単位を採用しているのがわかります。

例えばフランスでは子供も含めた家族の人数によりN分N乗を行っており、例えば子供が5人もいれば同じ収入の家計であっても、子供なしの夫婦二人に比べて所得税の納税額がおそらく2分の1か3分の1に減少すると思われます。ではどのような事情があったのでしょう。

それは第2次世界大戦により国民の多くが死亡した事情。そして、男性が多数死亡したため、生まれる子供の数が極端に減少し、出生率が低下し急激な人口減少が憂慮される事態でした(現在の日本ですね。。)このような事態を打開するべく、 N分N乗方式 を採用したのですね。

またイギリスを例にとってみると、所得税の母国であるイギリスは、1799年に最初の所得税を導入して以来、1971年までの長期間にわたって、夫婦を課税単位とし、合算非分割課税を行ってきました。合算非分割課税は、結婚へのペナルティが大きい制度なのですが、これが近年まで維持されてきた背景はイギリスの所得税制の特徴があったのです。それは、基本税率を適用する所得区分の幅がかなり広いために、累進税率で課税されるのは一部の高所得者に限られており、大多数の納税者にとっては、夫婦の所得を合算しても税負担の総額は変わらない、ということ。しかし、就労する既婚女性が激増し、専門的で高所得を得るような職業への進出も増えたことから、1971 年以降、合算非分割課税との選択制で、妻の勤労所得を夫の所得から分離することが認められるようになったのです。そして1990 年からは完全な個人単位課税に移行しました。

このようにそれぞれの国の政策・事象により各国それぞれの事情にあった単位課税制度を採用しているのです。

課税単位の類型
(2015年1月現在)(財務省㏋より)
  • 1.イギリスは、1990年4月6日以降、合算非分割課税から個人単位の課税に移行した。
  • 2.アメリカ、ドイツでは、夫婦単位と個人単位との選択制となっている。
  • 3.諸外国における民法上の私有財産制度について
    • (1) アメリカ:連邦としては統一的な財産制は存在せず、財産制は各州の定めるところに委ねており、多くの州では夫婦別産制を採用しているが、夫婦共有財産制を採用している州もある。
    • (2) イギリス:夫婦別産制。1870年及び1882年の既婚女性財産法(Married Women’s Property Act 1870,1882 )により夫婦別産制の原則が明らかとなり、1935年の法律改革(既婚女性及び不法行為者)法(Law Reform (Married Women and Tortfeasors) Act 1935)によって夫婦別産制が確立したとされる。
    • (3) ド イ ツ:原則別産制。財産管理は独立に行えるが、財産全体の処分には他方の同意が必要。
    • (4) フランス:財産に関する特段の契約なく婚姻するときは法定共通制(夫婦双方の共通財産と夫又は妻の特有財産が併存する)。

日本の課税単位 今後

日本でも少子化対策として所得税の課税方法にN分N乗方式を用いることが議論されています。 控除方式とN分N乗方式の優劣は単純に比較できないものの、2014年3月7日、甘利明元経済財政・再生担当大臣は、少子化対策として所得税の課税対象を世帯単位に見直す案を含めた税制改革の議論に着手する方針を明らかにしました。麻生太郎元副総理・財務・金融相も同じく「検討してみたい」とし「女性の社会進出や働き方、税収構造にどのような影響があるのか広範な検討を行う」と述べました。しかし世帯課税が導入されると、専業主婦の世帯は低い税率が適用されるが、主婦が新たに就労すると高い累進課税が適用されることになります。これでは、成長戦略が目指す女性の就労推進と相反するのではないかという意見もでています。また、N分N乗方式を採用しても、ランスの場合には中低所得層における累進課税の傾斜(変化率)が日本よりも急なので、同国のこの層については、N分N乗方式の効果が大きいと考えられますが、日本においては中低所得者に対する減税効果は限定的であるため、少子化対策として疑問視する声も高いのです。

 フランスでは(またフランスです)人口増加を目指して導入した社会システムはもう1つあり、それは「婚姻していない男女のあいだに生まれた子供も、婚姻している夫婦間の子供と全く同じ福祉(子供の手当、学校教育、保育園や幼稚園の扱い等々)が得られる」システムです。

 その結果、現在では、フランスで生まれる子供全体のほぼ半数は、「法律上の夫婦ではない男女」から生まれた子供となっているのですが、出生率は著しく増加に転じているそうです。そしてフランスの人口問題はこの20~30年間で劇的に改善し、人口増加に転じているとのことです。

人口減少が深刻な問題とされている日本。フランスのように他の制度も並行してあらゆる政策を打ち出して、出生率をあげていけたらいいと思います。税の役割でもおわかりの通り、課税制度は私たちの生活に大きな力を及ぼします。どの単位課税制度を選択すかによって、日本の最大の問題の一つである出生率についてにまで影響を及ぼす力もあります。今後日本にとって出生率増加のための対策は必須事項と言えるでしょう。どのような税制改革をしてくるのか、思い切って課税単位が変わる可能性もあるかもしれないですね。

タイトルとURLをコピーしました